〔花売り娘〕バー・クラルテの雇われマダム道江は、今宵ひどく不機嫌で、花売りの少女民子にもつらく当った。道江は旦那を刑務所に行かさないために二十万円つくる必要があるのだが、その金をマスターから出させるためにはマスターに身をまかせなければならぬ。銀座の夜は雨になった。道江はしょんぼりと雨宿りしている民子を哀れに思い、売れ残りを買いあげ千円札を与えた。民子は喜んで帰ったが、病気の姉は死んでいた。数日後、お礼を云うために、民子は道江の家を訪れた。あの日道江は折角二十万円つくったのに旦那は自殺していた。それ以来クラルテも止め、悲観して寝てばかりいたが、民子との再会で再び生きる力を見出した。 〔とびこんだ花嫁〕河野は朝っぱらからアパートのおばさんにたたきおこされた。前に故郷のお袋から写真を送って来ていた花嫁が、突如やって来たのだ。河野はキモをつぶし、その谷くに子という女を置いて工場へ出掛け、同僚の森川や古野に相談した。だが昼めしどき、やはり気になるので部屋へ帰ってみると、くに子はいましがた去ったところだと云う。方々探してみたが見つからず又部屋へ戻ってみると、河野のお袋からことずかったチャンチャンコやくに子の兄の御土産たる二つのタネ芋を渡すのを忘れていたと、くに子が彼を待っていた。さてそれからイモやアズキについての珍問答を繰り返すうちに、二人の心はほぐれてくるのだった。 〔愛すればこそ〕競輪場の臨時雇をしている母八重子と、姉娘とし子、妹娘みち子とは貧しい生活を送っていた。而も一人息子の茂は思想犯で牢に入っている。ところが、二十七才のとし子は、いい部屋が見つかったので、須藤という男と結婚しようとした。母も妹もとし子がこの際家を出ることを喜ばない。がその時訪れた伯父の五郎は、とし子の幸福は祈ってやって、その代り茂に帰ってもらえばよいのだと主張した。後ろ髪ひかれる思いだが、とし子は家を出て行った。翌日、八重子は刑務所の茂に面会に行ったが、茂は自分のえらんだ道をまげるわけにいかないと云うのだった。その後、ゆみ子という女性が来ている。八重子はこれは茂の何だろうかと気づかいつつ帰途につくと、背後からゆみ子が「お母さん、お母さん」と呼んで追って来た。息子たちの明るい明日を思えば、苦しい生活にも耐えられると八重子は思う。